深部地质环境合理的地质构筑法関研.pdf
深部地質環境の合理的な地質モデルの構築法に関する研究 Development of the Integrated Geological Model Based on Geoinatics 山本 真哉 Shinya YAMAMOTO Abstract A large amount of geotechnical data is often obtained in civil engineering projects due to the development of geotechnical measuring technique. However, it is difficult to take such data into consideration systematically because of the lack of data processing system. The purpose of this study is to develop the integrated geological model for measured data based on Geoinatics. This study consists of the following three main parts 1 the prediction of geological condition ahead of the tunnel face by the of geostatistics; 2 the imaging with multidimensional scaling for spatial distribution of hydraulic properties; and 3 the GIS-based integrated modeling to uate geological properties around large rock cavern using results of the measurement, which would be main problems in construction of high-level waste disposal facility. 1. はじめに 近年,建設分野においては設計・施工の合理化 を目的とした情報化施工の発展に伴い,調査時お よび施工時に計測されるデータはその種類・量と もに増大している.しかしながら,データ処理シ ステムの確立が十分でない等の理由からそれらの 膨大なデータについて体系的かつ総合的な評価を 行うのは困難である. そこで筆者は Geoinatics の概念に基づいて地質に関するデータを統合的に 処理,評価できるモデルの構築について検討する こととした.ここで,Geoinatics(地球情報学) とは地球科学に関するデータに対して情報科学的 なアプローチをとる新しい学問分野をさし, Geoinatics では地球統計学等に代表される空 間統計学や GIS (地理情報システム),リモートセ ンシング,データマイニングなど多岐にわたる手 法を用いた研究が様々な分野(地球物理学,土木 工学,防災工学,環境工学等)にわたってなされ ている. さて,21 世紀を迎えたわが国において,現在多 くの注目を集めているプロジェクトとして,高レ ベル放射性廃棄物処分場の建設がある.大深度岩 盤内に建設が計画されているこの処分場は,放射 性物質の長期的な貯蔵に耐えうる遮蔽機能を有す る必要があり,このことを定量的に検証すること が重要となる. 高レベル放射性廃棄物処分サイト建設において はサイト特性調査や建設・操業時の品質管理,な らびに地質環境条件のモニタリングを目的として, 計画段階から建設段階そして保守段階に至るまで 多岐にわたる調査および計測が実施される.その ため,サイトの力学特性や透水特性等の岩盤特性 に関する情報が大量に取得され,常に更新される ことになる.したがって,取得されたデータを逐 次蓄積すると同時に,処分サイトの岩盤特性を体 系的に評価し迅速に可視化可能な情報データベー スの構築が必要になると思われる. プロジェクトの各段階においては,時間・空間 的広がりをもった大量のデータを逐次解析処理し, その結果を迅速に可視化する必要がある. さらに, データの量,種類,そして時間・空間的な変動を 考慮した場合,計測結果の評価,とりわけモニタ リング時の評価が煩雑になることが予想され,物 理則に基づいた評価や定性的な評価に加えて,簡 易にデータ解析が可能で,かつデータの時空間変 動の取り扱いが比較的容易な統計的評価手法が必 要である. 本研究では上記のような高レベル放射性廃棄物 処分場の建設に際して考えられる課題を想定して, Geoinatics を用いた岩盤特性の評価および統 合的地質モデルの構築についていくつかの検討を 行った. 2. 地球統計手法を用いた地質評価 2.1. トンネル切羽前方の地質予測に関する検討 TBM 工法は, トンネルの掘削工法の中で近年最 も注目を集めている工法である. TBM 工法の長所 としては,高速での掘進が可能であることや切羽 での作業がないために安全な掘削が可能であると いうことが挙げられる.一方,TBM はその構造上 切羽面の観察ができないために,切羽前方の地質 予測が困難である.そのため,事前対策が必要と される軟弱層や破砕帯などで,切羽崩落などによ るマシントラブルが発生しやすい.複雑な地質条 件のもとでは,このようなトラブルの発生によっ て, TBM の高速掘進性能が十分に発揮されていな いのが現状であり,切羽前方の地質性状の予測が 不可欠と考えられる. ここで, TBM によるトンネル切羽前方地質を予 測する上で必要とされる条件として,①予測に用 いる特性値(物性)が支保の選定に適用できる情 報であること,②支保の選定に必要とされる十分 な精度を有すること, ③TBM 掘進中にリアルタイ ムに予測できること,④予測結果に基づく支保の 選定が迅速に行えること,などを挙げることがで きる. そこで本研究では, これらの条件を満たすべく, 地球統計学的シミュレーションを利用して,施工 時の TBM 機械データ及び削孔検層データから切 羽前方地質を高精度に推定すると同時にリスク分 析を可能にする予測システムを開発し,このシス テムの適用性を現場のデータを用いて検証した. 1 対象トンネルと計測データの概要 検討対象トンネルにおける地質は,花崗岩と第 三紀層の泥岩からなり,その境界には断層破砕帯 が存在する.今回は施工上大きな問題となる断層 付近を検討対象区間として設定し,断層の検出精 度について検証することとした. 推定に用いるデータは掘削時に得られる TBM 機械データから算出される岩盤強度と,切羽前方 の地質確認のために実施される削孔検層データか ら得られる破壊エネルギー係数である.これら 2 種類のデータがもつ物理的意味は近く,また互い のデータ間には高い相関性が認められることから, 破壊エネルギー係数を岩盤強度に変換した後,推 定に用いた. 2 Kriging による推定 切羽位置の各進行段階でクリギング推定された 岩盤強度の推定分布図を図 1 に示す. TBM の掘進 方向は左から右方向に向かい,図中の太線は,削 孔検層位置を示している.また,図の上段には, 削孔検層中に採取されたスライムの観察結果,支 保工の実績, 掘削後の坑壁観察結果を示しており, 図の下段には実測の岩盤強度値を示している. 本図を見ると,この区間の基点から17~28m 付近に分布する断層破砕帯が,岩盤強度の低下と いう形で顕在化していることがわかる.また,こ の断層破砕帯群に伴う岩盤強度の低下を実際の岩 盤強度の絶対値として予測できていることがわか る.特に,坑壁観察で抜け落ちが認められている 17~23m付近の断層主要部およびその背後の 27~28m付近においては,岩盤強度の絶対値を 適正に推定できている.さらに,切羽と推定位置 との距離が近くなるほど断層破砕帯付近の推定精 度が向上していくのがわかる.これは TBM の掘 進に従い, TBM から得られる機械データを更新し て予測精度の向上を図ったためと考えられる. 一方, TBM 通過後の天端付近における岩盤強度 を図 1 に示すような空間的相関性という基準で同 時に推定できる点も地球統計学的手法の利点の一 つである.すなわち,前方予測を継続的に行うこ とによって,結果的にトンネル周辺の地質的特異 点に関する正確な情報も同時に得ていることにな る. 3 Sequential indicator simulationによる推定 本研究においては,TBM の掘進 1m あたりにつ いて,地球統計学的シミュレーションにより計 30 個の推定値マップを作成し,これに一定のしきい 値を与えることで,岩盤強度の下側確率を表現す るリスクマップを作成した. 図 2は,例として切羽位置が12mのときの結 果を示したものである.なお,しきい値は上から 順に岩盤強度 31, 30, 29, 28[N/mm2]に設定してい る. まず,抜け落ちが観測されている17~23m 付 近の断層主要部では,いずれの図においても,し きい値の岩盤強度を下回る確率が大きいという傾 向が認められ,さらには断層背後の脆弱部27~ 28m付近でも同様にしきい値の岩盤強度を下回 る確率が大きくなっている. また,しきい値の変化に伴って領域の各部にお ける下側確率の等高線が大きく変化していること が確認できる.加えて,この変化は必ずしも線形 的な変化ではなく,しきい値が 28[N/mm2]の場合 には,特に実測強度分布と整合的なコントラスト で脆弱部を把握できていることがわかる. 図 1 Kriging による切羽前方の地質推定結果 図 2 SISにより作成されたprobability map の一例 しきい値29[N/mm2] 2.2. 大規模地下空洞における周辺地質予測に関 する検討 一般に,地下発電所など大規模地下空洞では主 たる支保の一つとして, PS アンカーが用いられて いる.PS アンカーの施工に際しては,アンカー挿 入のための削孔がなされるが,このときに削孔検 層を実施して破壊エネルギー係数を算出すれば, 岩盤の良否を高い精度でリアルタイムに判定する ことが可能となる.ここで,PS アンカーは空洞の 進捗に伴って系統的に設置されるため,この削孔 検層情報を空洞の情報化施工(フィードバックお よびフィードフォワード)のフレームワークに取 り入れることも十分に可能である.このような状 況に鑑み,地球統計学を用いて,①空洞掘削時に おける空洞周辺岩盤の評価(フィードバック)な らびに②次段階の掘削後に出現する岩盤状況の事 前予測 (フィードフォワード) を試みると同時に, その適用性(精度)について検討を行った. 神流川地下発電所本体空洞の掘削においては, PS アンカー削孔時に削孔検層が実施され, 広範囲 にわたって破壊エネルギー係数が得られているが, 空洞掘削の各段階(アーチ掘削時および各ベンチ 掘削時)でこれらのデータを用いて kriging による 補間を行い,各種計測結果(地質分布・弾性波ト モグラフィー・変位分布など) との比較を行った. 図 3 は,ある空洞断面において推定された破壊エ ネルギー係数の空間分布と地質の分布を対比させ たものであり,地質の差異に伴う岩盤物性の違い が現れている.また,壁面近傍においては空洞掘 削に伴う緩み領域の発生により岩盤物性が低下し ているのが認められる. 図 3 地球統計手法により推定された破壊エネルギー係 数の空間分布と地質分布の比較 3. 多次元尺度構成法を用いた水理地質構造 の評価 HLW サイトの水理特性を評価する上で, 岩盤の 水理地質構造を精度良く把握することは極めて重 要であり,特に坑道周辺岩盤の水理学的な評価に はクロスホール透水試験が有効とされている.ク ロスホール透水試験の結果から水理地質構造をイ メージングする場合,物理探査で用いられる一般 的なトモグラフィーとは異なり,地下水は直線的 に観測孔に到達するのではなく,水みちを経由し て観測孔に到達することから,新しい逆構成法を 開発する必要がある. 本研究では多次元尺度構成法(MDS)と呼ばれ る,データ間の関係(類似度)のみからそのデー タが有する構造を再構成することができる推定統 計的手法を適用し,水理地質構造のイメージング 手法の開発を行った. 3.1. 多次元尺度構成法 多次元尺度構成法(Multidimensional Scaling)は データ内に潜在するデータ構造を明らかにするこ とを目的として,データ間の関係に基づいてある 多次元空間上での各データの配置を求める手法で ある.この空間的配置のことを布置と呼ぶ.多次 元尺度構成法ではデータ間の関係を表すものとし て類似度と呼ばれる指標が用いられる.そして類 似度と布置上のデータ間の距離の関係は単調減少 であるとした仮定を基に空間上の布置を求める. 3.2. 数値実験の概要 本研究では 2次元浸透流解析を行い,その解析 結果をクロスホール透水試験のデータとして用い て水理地質構造のイメージングを試みた.以下に 数値実験の手順を示す. ①クロスホール透水試験を想定したスケールでの 解析領域を設定し,水理地質条件(透水層の位 置,角度,透水係数)が異なる複数の実験モデ ルを考える. ②①で設定した解析ケースを基にクロスホールの 定流量注水試験を 2次元浸透流解析によりシミ ュレートし,解析から得られた水頭の経時変化 から各観測点間の水頭拡散率を算出する. ③②で得られた水頭拡散率の逆数を多次元尺度構 成法における類似度として用いて,2 次元空間 における布置を求める. ④得られた布置を均質な透水性をもつ多角形と考 え,これをもとのスケールの領域に変形させた ときの密度変化から孔間における水理特性を推 定し,水理地質構造をイメージ化する. 3.3. 実験結果 今回の数値実験では計 10個のモデルについて 検討を実施した.その結果の一例を図 4 に示す. この例では,本研究で提案するイメージング手法 により実験モデルで想定した水理地質構造を的確 に再構成できていることが分かる. 図 4 数値実験の結果例 4. 統合的地質評価モデルの構築 時間・空間的広がりをもつ大量の地質データを 迅速かつ効率的にデータベース化,解析処理,な らびに可視化できるシステムを構築するにあたっ ては,GISを採用するのが肝要であると考えられ る. 本研究では,大規模地下空洞の建設時に取得さ れた地質情報を GISにより統合化するとともに, その計測項目の時間・空間的変動から空洞周辺の 地質特性およびゆるみ領域を評価した. 4.1. 対象空洞と計測データの概要 検討対象となる空洞は土かぶり約 500m, 最大断 面積約 1400m2, 掘削量 22 万 m3の大規模地下空洞 である.本研究では以下の計測項目を GIS により データベース化するとともに,各データ間の時 間・空間的な相関性を着目点として空洞周辺岩盤 の地質評価を実施した. ・岩盤変位測定(岩盤内変位計) ・岩盤内応力変化測定(振動弦型地圧計) ・岩盤内亀裂状況観察(BTV) ・弾性波速度測定(弾性波トモグラフィー) ・AE 測定(AE センサー) 4.2. 計測データの分析 上記の各種計測データは空洞周辺において緩み 領域が形成され,進展する挙動をとらえているこ とが確認された.さらに,地質が異なる 2 つの計 測断面では緩み領域の挙動が異なること,支保の 効果により緩みの進展が抑制され,空洞が安定な 状態に至ることが確認された.また,岩盤内の応 力集中による微小破壊が累積し,岩盤物性の低下 へ至るといった応力再配分の過程に伴い緩み領域 が形成されることが明らかとなった.次に,区間 ひずみにより定義された緩み領域と各種計測デー タの関係について判別分析を行ったところ,AE 測定は掘削直後の緩みの形成と進展を精度よく検 知できることが判明した. 5. おわりに 本研究においては, 各種調査・計測データを GIS により統合化し,体系的に評価することができる 統合的サイト評価システムを提案した.このシス テムにより調査および評価技術の高度化が図られ ると同時に今後の地層処分研究開発においても有 用であると考えられる. 参考文献 1 核燃料サイクル開発機構 わが国における高レベル 放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性 -地層処 分研究開発第 2 次とりまとめ-,1999 2 M. E. Hohn Geostatistics and Petroleum Geology, Kluwer Academic Publishers, 1999 3 林知己夫,飽戸弘多次元尺度解析法 -その有効 性と問題点-,サイエンス社,1976 指導教官 青木謙治教授,水戸義忠助手