地质环境长期安定性関研究(5).pdf
地質環境の長期安定性に関する研究地質環境の長期安定性に関する研究 --平成平成 1 71 7 年取り まと め以降の進展と 今後の挑戦年取り まと め以降の進展と 今後の挑戦-- 独立行政法人日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門 東濃地科学研究ユニッ ト 自然事象研究グループ 石丸 恒存 1 . はじ めに1 . はじ めに 安定大陸に比べて地殻変動や火成活動などが活発である わが国において, 地層処分の安全性を確 保する ためには, 地層処分システムの性能が著し く 損なわれないよ う , 地質環境が長期にわたって安定 なサイ ト を選定する こ と が前提と なる。 こ のため「 地質環境の長期安定性に関する 研究」 では, 地下深部 の地質環境に影響を及ぼす可能性のある地震・ 断層活動, 火山活動, 隆起・ 侵食, 気候・ 海水準変動 などの天然現象を対象にこ れまで研究を進めてき た。 平成 17 年取り まと め 1 以降は, 高レベル放射性廃棄物の地層処分基盤研究開発に関する 全体計画 ( 2 0 0 6) 2 に基づいて, 地層処分の事業や安全規制などに必要と なる 調査技術や評価手法の整備に重 点をおいて研究を進めており , 現在の「 地質環境の長期安定性に関する 研究」 では, ①調査技術の開 発・ 体系化, ②長期予測・ 影響評価モデルの開発, ③年代測定技術開発の3 つの目標を設定し , 上記 の天然現象に関連する 各研究課題に取り 組んでいる 。 22 .. 平成平成 1 71 7 年取り まと め以降の年取り まと め以降の研究成果の概要研究成果の概要 平成 17年取り まと め以降は, 特に地上から の調査段階に必要と さ れる 調査・ 解析技術に対し て研究 成果をタ イ ムリ ーに反映し ていく こ と を念頭に, 各目標に対し て幾つかの研究課題を設定し て研究開発 を進めている 。 「 調査技術の開発・ 体系化」 では, 天然現象に関する 過去の記録や現在の状況を調査するための体 系的な技術の整備を目指し て, 主に個別の要素技術の開発や既存の調査技術の適用性の確認などを 進めている ( 精密調査地区などの選定や安全性の検討に必要と なる 調査技術への反映) 。 「 長期予測・ 影響評価モデルの開発」 では, 将来の天然現象に伴う 地質環境条件の変化を予測・ 評価する ための手 法の整備を目指し て, 現象のプロ セスを考慮し た数値モデル解析技術や現象を確率論的に取り 扱う 方 法などの開発を進めている( 天然現象による影響を考慮し た安全評価への反映) 。 「 年代測定技術開 発」 では, 天然現象の活動履歴や変動の傾向・ 速度を精度良く 把握する上で必要と なる 放射年代デー タ を得る ため, 加速器質量分析装置, 希ガス質量分析装置などを用いた最新の年代測定技術の開発・ 整備をし ている 。 以下に具体的な研究課題と こ れまでの研究成果の概要を紹介する 。 2 . 12 . 1 調査技術の開発・ 体系化調査技術の開発・ 体系化 ○断層の発達履歴・ 活動性に関する 調査技術 ・ 断層から の離間距離等を合理的に設定する ための調査技術と し て, 逆断層帯における 分岐断層( 前縁 断層) や撓曲構造の発達プロ セス, 及び横ずれ断層帯における断層破砕帯や変形帯の分布やその発 達履歴を把握するための調査手法について, 反射法地震探査や地形・ 地質調査等に基づく 一連の調 査手法と 解析手法の適用事例を示し た( 事例対象 逆断層帯; 横手盆地東縁断層帯, 横ずれ断層帯; 跡津川断層帯, 阿寺断層帯) 例えば 3 。 ・ 地下深部での岩石破壊によ り 発生する と 考えら れる 水素ガスを地表部( 断層露頭等) で簡便に測定でき る 手法を考案すると と も に4, 水素ガスやマント ル起源の希ガス等の観測・ 解析と いった地球化学的手法 が, 従来の地形・ 地質学的, 地球物理学的な手法に基づく 活断層の認定やその活動性の評価を補完 する 技術と し て有効である と いった見通し を得た。 5 など ○地下深部のマグマ・ 高温流体等の調査技術 ・ 地下深部のマグマ・ 高温流体等の存在の有無を確認する ための調査技術と し て, 地震波ト モグラ フィ ー, 地磁気・ 地電流法( M T 法) などの地球物理学的手法に加えて, 希ガス同位体などを指標と し た地球化 学的手法を組み合わせた体系的な調査手法を示し た( 事例対象 鳴子火山, 飯豊山地, 能登半島等) 例えば 6 。 ・ 比抵抗構造解析技術と し て観測データ の自動スタッ キング法を開発し , 観測データ の不確実性評価手 法を示し た。 さ ら に, こ れまで海域の影響によ り 正し い比抵抗構造の推定が困難であった沿岸域を対象 にし た解析技術と し て, 三次元比抵抗構造解析手法の適用性を確認し た( 事例対象; 三瓶山) 7 。 ○火山・ 熱水活動履歴の調査技術 ・ 熱水等による影響の有無を確認するための調査技術と し て, 熱水活動の開始時期の把握について, K -A r 年代, FT 年代, T L年代等を組み合わせた一連の調査手法の適用事例を示し た( 事例対象; 紀伊 半島) 8 。 ・ 更新世中期までの火山を対象に多量屈折率地質解析法( RI PL法) によ る火山活動史の編年を事例的 に行う こ と により , RI PL法がテフラ を用いた鮮新統~第四系の編年に適用可能な手法であるこ と を示し た( 事例対象; むつ燧岳)。 ○古地形・ 古気候の復元調査技術 ・ 地下水流動等の変遷を推定する上で必要な古地形と 古気候の情報を取得する 調査技術と し て, 地形・ 地質調査と ボーリ ングコ アを用いた堆積相解析, 植物片等を用いた古気候調査等を組み合わせた一連 の調査手法の有効性を示し た( 事例対象 東濃地域)。 ・ 内陸部の隆起速度を把握する 調査手法と し て, 河成段丘発達モデルに基づく 段丘面の比高から 隆起 速度を推定する 方法( テラ ス-テラ ス法; T T 法) の適用性と 有効性を確認し た。( 事例対象 土岐川流域, 鏑川流域等) 9 。 2 . 22 . 2 長期予測・ 影響評価モデルの開発長期予測・ 影響評価モデルの開発 ○断層活動の影響評価モデル ・ 断層周辺の岩盤の変形領域や地形変化の範囲を推定する 手法と し て, 既存の地殻変動等の数値解析 プロ グラ ムを用いて断層変位が生じ た際の断層周辺の地殻の上下変動量等の解析を行い現地データ と 比較する こ と によ り , 数値解析手法の適用性を確認し た( 事例対象; 中央構造線)。 ○火山活動等の長期予測モデル ・ 新たに火山の発生する 可能性を確率論的アプロ ーチによ って評価する 手法と し て, 火山分布, 活動開 始年代に基づく 空間統計学的手法による 確率分布モデルに地球物理データ ( 地震波速度構造, 地殻 熱流量) をベイ ズ法で結合し たm u l t i p l e i n f e r e n c e モデルを構築し , 火山地域を事例にモデルの妥当性 を確認し た( 事例対象; 東北地方, 伊豆地方)。 ○熱水活動等の影響評価モデル ・ 地下深部から の熱の影響を評価する手法と し て, マグマ溜り 周辺岩盤の熱や地下水理などの変化を計 算する ための解析コ ード ( M a g m a 2 0 0 2 ) を開発し , M a g m a 2 0 0 2 を用いた火山性の地熱地帯での解析結 果と 地質, 地球物理データ と の比較・ 検討を行い, シミ ュレーショ ンの妥当性を確認し た( 事例対象 雲 仙火山, 鳴子火山)。 ○地形変化モデル ・ 将来の地形変化を推定する 手法と し て, 斜面で生産さ れた土砂が河川により 運搬・ 堆積する 現象に基 づいて万年オーダーの地形変化を大局的に表現でき る基本プロ グラ ムを開発し , 地質分布, 堆積速度, 隆起速度, 礫径等の現地データ を考慮し た地形変化シミ ュ レーショ ン・ プロ グラ ムを整備中である10 。 ・ 地形変化や気候変動などの天然現象が地下水理などの地質環境に与える 影響を把握する ための地下 水流動解析手法について, その適用事例を示し た( 事例対象 東濃地域) 11 など。 2 . 32 . 3 年代測定技術の開発年代測定技術の開発 ○加速器質量分析装置( A M S) を用いた年代測定技術 ・ ペレト ロ ン年代測定装置について, 放射性炭素の安定的な測定を継続し , 装置改善によ り 測定精度の 向上を図る と と も に, ベリ リ ウ ム同位体の試験測定を行い, ベリ リ ウ ム同位体測定の実用化に向けての見 通し を得た。 ○希ガス用質量分析装置を用いたK -A r 法に係わる 年代測定技術 ・ 断層の充填物から 成因ごと に分離し た粘土鉱物の年代測定を行う ために必要なK -A r 法による年代測 定技術を導入する ため, アルゴンについては希ガス用質量分析装置によ って, カリ ウムについてはフレ ーム光度法によ って定量が可能なシステムを構築し た。 ○四重極型質量分析計を用いた U -T h /H e 法に係わる 年代測定技術 ・ 低温の熱履歴把握を可能と する ため, 閉鎖温度の低い年代測定手法である U -T h /H e 法によ る 年代測 定システムを構築し , 本手法によ る ジルコンを用いた単粒子年代測定を実用化し た。 また, 四重極型質 量分析計を用いる こ と でより 分析精度を向上さ せ, ジルコ ンに比べてヘリ ウ ム含有量の低いアパタイ ト を 用いた単粒子年代測定の実用化に着手し た。 33 .. 今後の挑戦今後の挑戦 わが国において地層処分計画を着実に進める 上では, 「 地質環境の長期安定性に関する 研究」 の研 究開発成果はその基礎・ 基盤をなすも のである。 今後も 外部ニーズを踏まえた国の基盤研究開発の全 体目標の達成に向け, 研究機関相互の連携や役割分担のも と に, 地層処分技術のさ ら なる信頼性の 向上を目指し て, 研究テーマの重点化を図り つつ, 研究開発成果を処分事業と 安全規制の双方に反 映でき る よ う に着実に進めていく 。 具体的には, 今後と も 地層処分計画の進展を踏まえつつ, 基本的にはこ れまでの枠組みでの研究開 発を継続し て推進し ていく が, 「 調査技術の開発・ 体系化」 については, 最終処分施設建設地の選定過 程の各段階において引き 続き 重要課題と なる と 考えら れる 断層活動に係わる 研究開発を重点的に推進 し ていく 。 特に, 変動地形が明瞭でない断層及び伏在断層, 地下深部の震源断層の確認等に係わる 調査技術のほか, 例えば, 坑道掘削時に遭遇し た断層の活動性の評価や処分場閉鎖後の天然現象の モニタ リ ング技術等, いく つかの課題が残さ れており , こ れら の課題への対応が必要と なる 。 また, 「 長期予測・ 影響評価モデルの開発」 については, 天然現象に伴う 将来の地質環境条件の変 化を, それぞれのシナリ オに応じ て, その発生の可能性と 変動幅や変動範囲を示すと と も に, 予測に伴 う 不確実性( ある いは確度) を併せて示すこ と を目指す。 こ れら については, 将来 10万年程度の評価を 念頭において研究開発を進めている が, 10万年以上の超長期の評価が求めら れた場合には, 過去数 十万年から 数百万年の履歴に基づく 外挿が基本になる と 考えら れる。 ただし , 現状の編年精度に鑑み る と , 過去数十万年を超える 履歴に基づいた場合, 予測結果の不確実性は著し く 増大する こ と が想定さ れる ため, 「 年代測定技術の開発」 を推進し , 編年技術の高度化を進める 必要がある 。 さ ら に, 例えば百 万年オーダーでの地殻変動の開始時期や変動傾向の概括的な評価技術や, プレート 運動の変化に伴 う テク ト ニッ ク な環境の変動を考慮し た地質環境条件の変動幅の推定手法の開発等, 超長期の予測に 必要と なる 研究課題の検討を進め, サイ ト 選定や安全評価に係わる 信頼性を向上さ せる こ と が重要と 考 える 。 参考文献参考文献 1 核燃料サイ ク ル開発機構 2 0 0 5 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する 知識基盤の構築- 平成 17 年取り まと め-, 分冊 1 深地層の科学的研究( 2 0 0 5年 9 月) , JNC T N140 0 2 0 0 5-0 14 2 資源エネルギー庁, ( 独) 日本原子力研究開発備機構 2 0 0 6 高レベル放射性廃棄物の地層処分基 盤研究開発に関する 全体計画( 2 0 0 6年 12月) 3 K a g o h a r a e t a l . 2 0 0 9 Su b s u r f a c e g e o m e t r y a n d s t r u c t u r a l e v o l u t i o n o f t h e e a s t e r n m a r g i n f a u l t z o n e o f t h e Y o k o t e b a s i n b a s e d o n s e i s m i c r e f l e c t i o n d a t a , n o r t h e a s t Ja p a n , T e c t o n o p h y s i c s . , d o i 10 . 10 16/j . t e c t o . 2 0 0 9 . 0 2 . 0 0 7 . 4 Sh i m a d a e t a l . 2 0 0 8 Ra p i d a n d Si m p l e M e a s u r e m e n t o f H 2 Em i s s i o n f r o m A c t i v e Fa u l t s U s i n g C o m p a c t Sa m p l i n g Eq u i p m e n t s , Re s o u r c e G e o l o g y , 58 , 2 , 19 6-2 0 2 . 5 U m e d a , K . , a n d A . Ni n o m i y a 2 0 0 9 , H e l i u m i s o t o p e s a s a t o o l f o r d e t e c t i n g c o n c e a l e d a c t i v e f a u l t s , G e o c h e m . G e o p h y s . G e o s y s t . , 10 , Q 0 8 0 10 , d o i 10 . 10 2 9 /2 0 0 9 G C 0 0 2 50 1. 6 U m e d a , e t a l . ( 2 0 0 7 ) M u l t i p l e l i n e s o f e v i d e n c e f o r c r u s t a l m a g m a s t o r a g e b e n e a t h t h e M e s o z o i c c r y s t a l l i n e I i d e M o u n t a i n s , n o r t h e a s t Ja p a n , J. G e o p h y s . Re s . , 112 , B0 52 0 7 , d o i 10 . 10 2 9 /2 0 0 6JB0 0 459 0 . 7 根木他( 2 0 0 9 ) 沿岸域における 三次元比抵抗構造解析, 物理探査学会学術講演会講演論文集, 12 0 , 169 -17 2 . 8 花室他( 2 0 0 8 ) 紀伊半島南部, 本宮及び十津川地域の温泉周辺の熱水活動史. 岩石鉱物科学, 37 , 2 7 -38 . 9 田力他( 2 0 0 9 ) 土岐川( 庄内川) 流域の河成段丘と 更新世中期以降の地形発達. 第四紀研究, ( 投稿 中) 10 三箇・ 安江 2 0 0 8 河床縦断形のシミ ュ レーショ ン, 地形, 2 9 , 2 7 -49 . 11 尾上他( 2 0 0 9 ) 過去から 現在までの長期的な地形変化が地下水流動特性に与える影響の解析的評 価の試み. 日本原子力学会和文論文誌, 8 , 40 -53.