地质环境长期安定性関研究(1).pdf
地質環境の長期安定性に関する研究 2006 年度調査研究計画書 平成 18 年 4 月 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門 東濃地科学研究ユニット 自然事象研究グループ 資料2 1 地質環境の長期安定性に関する研究計画書(2006 年度) 目 次 1. 研究の概要................................................................. 2 1.1 調査技術の開発・体系化 3 1.2 長期予測・影響評価モデルの開発 3 1.3 分析技術開発および研究情報基盤の整備 4 2. 2006 年度の調査研究計画 .................................................... 5 2.1 地震・断層活動に関する研究 5 2.1.1 活断層の活動履歴に関する調査技術 5 2.1.2 低活動性の活断層に関する調査技術 5 2.1.3 断層活動の力学的影響評価モデルの開発 6 2.2 火山・地熱活動に関する研究 8 2.2.1 火山・熱水活動履歴の調査技術 8 2.2.2 地下深部のマグマ・高温流体等の調査技術 9 2.2.3 火山・地熱活動の長期予測・影響評価モデルの開発 10 2.3 隆起・侵食/気候・海水準変動に関する研究 13 2.3.1 古地形・古環境の復元調査技術 13 2.3.2 三次元地形変化モデルの開発 14 2.3.3 地殻変動および気候・海水準変動を考慮した地下水流動解析手法の開発 15 2.4 ナチュラルアナログ研究 17 2.5 分析技術開発 18 2.6 地質環境の長期モニタリングに関する研究 20 2 1. 研究の概要 いわゆる安定大陸に位置する諸外国の地層処分の概念に比べて,地殻変動の激しいわが国 においては,特に地質環境の長期的な安定性について考慮し, 「安定な地質環境」に,多重バ リアシステムを構築する必要がある。すなわち,天然現象によって地層処分システムの性能 が著しく損なわれるおそれのないようなサイトを選ぶことが前提であり,その上で,サイト の地質環境条件やその長期的な変化を見込んで,合理的な多重バリアシステムを構築し,長 期的な安全性を確認することが必要となる。そのため,サイトの評価にあたっては,火山活 動等のように地層処分システムの性能に著しい影響を与える現象が新たに発生する可能性や 地殻変動等によって生じる地質環境条件(例えば,地下水理,水質,岩盤物性等)の長期的 な変化をあらかじめ検討しておくことが重要である。原子力機構では,深地層の科学的研究 の一環として,これらの予測・評価に係わる研究開発(地質環境の長期安定性に関する研究) を実施している。 第 2 次取りまとめでは,関連する地球科学の分野に蓄積された情報や知見を分析するとと もに,地層や岩石の年代測定等を補足的に実施し,過去から現在までの活動の中に認められ る傾向や規則性に基づいて,天然現象の将来の活動の可能性や変動の規模等を検討した。そ の結果,地層処分に適した安定な地質環境がわが国にも広く存在し得るとの見通しが得られ た。また,その科学的な根拠となる基盤情報として,活断層や第四紀火山,海成段丘の分布・ 形成年代等に関する全国レベルでのデータベースを整備した(核燃料サイクル開発機構, 1999) 。 第 2 次取りまとめ以降は, わが国の地層処分計画が事業段階に進展したことを踏まえ, 「最 終処分法」に定められた段階的な処分地選定の要件や「安全規制の基本的考え方」 (原子力安 全委員会,2000)を念頭において,また,第 2 次取りまとめやその評価(原子力委員会原子 力バックエンド対策専門部会,2000;OECD/NEA,1999 等)の過程で明らかにされた課題 に焦点を当てて研究を進めた。具体的には, 「全体計画」 (核燃料サイクル開発機構,2001) に示したように,地形変化や非火山地域の温度異常等,注目すべき現象のモデル化やメカニ ズムの解明に焦点をあてた事例研究を進めるとともに,第 2 次取りまとめまでに整備した全 国レベルでのデータベースの拡充を継続した。 その後, 原子力安全委員会から, 「概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件につ いて」 (原子力安全委員会,2002)が示され,これを踏まえて,2002 年 12 月には原環機構 による「高レベル放射性廃棄物の最終処分施設の設置可能性を調査する区域」の公募が始ま り,その中で「概要調査地区選定上の考慮事項」が公表された。また一方で, 「高レベル放射 性廃棄物処分の安全規制に係る基盤確保に向けて」 (総合資源エネルギー調査会 原子力安 全・保安部会 廃棄物安全小委員会,2003)により,安全規制にとって重要な研究分野や課題 が示される等, 研究開発を進めていく上での方向性や具体的な課題がより明確になってきた。 このような状況の進展を受け,原子力機構では,従来から進めてきた全国レベルでのデー タの蓄積や個別現象の理解といった学術的な研究を継続する一方で,概要調査地区等の選定 や安全規制に必要となる調査技術や評価手法の整備に重点をおいて研究を進めることとした。 具体的には,研究成果をタイムリーに反映していけるよう,処分事業や安全規制のスケジュ ールを考慮して,以下の3つの目標を設定した。 ・調査技術の開発・体系化天然現象に関する過去の記録や現在の状況を調査するための体 系的な技術の整備(概要調査地区等の選定や安全性の検討に必要となるデータの取得) ・長期予測・影響評価モデルの開発将来の天然現象に伴う地質環境条件の変化を予測・評 価するための手法の整備(天然現象による影響を考慮した安全評価への反映) ・分析技術開発および研究情報基盤の整備上記①②のベースとなる最新の観測・分析技術 の整備および安全評価に係わるデータベースの整備 3 1.1 調査技術の開発・体系化 調査技術の開発・体系化については,原子力安全委員会の「環境要件」に示されているよ うに,概要調査地区およびその周辺地域において,活断層,第四紀火山等の存在を確認する ための調査技術を整備することが不可欠である。そのため,個別の要素技術の開発・改良の ほか,それぞれの地質環境に応じた最適な技術の組合せを提示することを目指している。ま た,地層処分システムに重大な影響を及ぼすと想定される現象の潜在的なリスクを排除する ため,地表付近で不明瞭となる震源断層,マグマ・高温流体等の存在を予め確認しておく必 要がある。これらについては,地球物理学的データの観測・解析等を主体となるが,地球化 学的な手法を併用することにより,調査技術の体系化と信頼性の向上を目指している。 一方, 「最終処分法」によると,過去においても概要調査地区およびその周辺地域において 地層処分システムの性能に著しい影響を及ぼすような現象が発生した痕跡がないことを確認 することが必要となる。これらについては,過去数十万年に地殻変動,火成活動等の履歴の みならず,地質環境が有する地下水理,水質,岩盤物性等の性質が大きく変化していないこ とを直接的(例えば,断層破砕帯・プロセスゾーンの岩盤物性,熱水変質帯の熱史等) ,ある いは間接的(例えば,過去の地下水理を推定するための古地形・水系等)に示すデータを取 得するための調査技術を整備していく必要がある。現段階では,最終的な体系化に向け,主 に個別の要素技術の開発や既存の調査技術の適用性の確認等を進めており, 「活断層の活動履 歴に関する調査技術」 , 「低活動性の活断層に関する調査技術」 , 「火山・熱水活動履歴の調査 技術」 , 「地下深部のマグマ・高温流体等の調査技術」 , 「古地形・古環境等の復元技術」等の 研究課題に取り組んでいる。 1.2 長期予測・影響評価モデルの開発 長期予測・影響評価モデルの開発では,処分施設の設計・施工等の工学的対策や地層処分 システムの安全評価等に資するため,地層処分システムの性能に著しい影響を及ぼす現 象が発生する可能性や地殻変動等に伴う地質環境条件(例えば,地下水理,水質,岩盤物性 等)の変化の幅等を予測・評価するための手法の開発を目指している。 予測・評価についての方法論としては,第 2 次取りまとめでも述べているように,過去か ら現在までの現象の変動傾向から将来を外挿する方法や現象の生起を統計的に求めて発生確 率を予測する方法等を基本となる。さらに,今後は経験則に加えて現象のプロセスを考慮し た数値シミュレーションモデルの研究開発を進めていくことにより,予測・評価に対する科 学的信頼性の向上を図っていくことが重要となる。具体的には以下のアプローチをとる。 ・現象を理解するための,過去から現在までの地質・地球物理・地球化学的データの取得 ・データに基づく現象の理解と概念モデルの構築 ・現象の発生の可能性および地質環境条件の変化の幅を予測するための数値シミュレーショ ンモデルの開発 これらの結果は,例えば,断層活動に伴う周辺岩盤の歪や地形変化に伴う動水勾配等の変 化の幅として,工学的対策や安全評価に反映されることになる。また,モデル開発に際して は,取得したデータの品質(物理探査等の分解能,分析方法に係る誤差・精度等)やモデル の信頼性,検証方法の妥当性等を検討しつつ,予測・評価結果に係る不確実性を定量的に把 握する必要がある。 また,長期予測・影響評価モデルの開発では, 「環境要件」に示された今後検討すべき課題 を考慮しつつ, 「断層活動の破断,変形に与える影響評価モデルの開発」 , 「火山活動等の長期 予測モデルの開発」 , 「熱水活動等の影響評価モデルの開発」 , 「火山・地熱活動の長期予測・ 4 影響評価モデルの開発」 , 「三次元地形変化モデルの開発」 , 「地殻変動および気候・海水準変 動を考慮した地下水流動解析手法の開発」等の研究課題に取り組んでいる。 1.3 分析技術開発および研究情報基盤の整備 分析技術開発については,地質環境の長期安定性に関する研究を進める上で必要になる基 盤データの提供を目的として,研究開発に必要な同位体測定技術を整備する。具体的には, ペレトロン年代測定装置については,これまで実施してきた放射性炭素年代測定に加えて, ベリリウムや塩素同位体を用いた年代測定の技術開発を進める。また,希ガス質量分析装置 を用いたヘリウム同位体比測定技術開発および安定同位体比質量分析装置を用いた安定同位 体比の測定技術開発を実施する。 研究情報基盤の整備については,これまでに進めてきた全国レベルでの天然現象データの GIS(地理情報システム)化を行っているほか,天然現象を考慮した安全評価に必要となる 変動シナリオや物質移行解析の前提となる一般的かつ現実的な現象のプロセスに関する情報 や地質環境条件(力学,熱,地下水理,水質等)の変化等に関するデータを重点的に整備す る。なお,情報の整備にあたっては,データに関する品質やトレーサビリティ等を明らかに するとともに,これらの情報を包含したデータベース(THMC データベース)の開発を進め る。 5 2. 2006 年度の調査研究計画 2.1 地震・断層活動に関する研究 2.1.1 活断層の活動履歴に関する調査技術 (1)目的 最終処分法によると,精密調査地区の選定は,地表踏査,物理探査,ボーリング等による 調査(概要調査)によって,当該概要調査地区内の最終処分を行おうとする地層およびその 周辺の地層において活断層がある場合に,これらが坑道その他の地下の施設に悪影響を及ぼ すおそれが少ないと見込まれることを確認する必要があるとされている。この確認は,科学 的根拠となる活断層の活動履歴の変遷に基づいて行うことが重要である。そこで,活断層帯 における活断層の分布や性状を調査し,断層の活動履歴に関する調査技術の検討を行う。 活断層帯の活動履歴を明らかにするため,活断層やその周辺岩盤の性状等による違いを考 慮した調査手法の開発を目指す。平成 17 年度は,岐阜県の跡津川断層帯を事例対象とした地 質調査を行い,断層岩の分布や性状に不均質があり,幅が局所的に変化していることを示し た。平成 18 年度の調査では,断層岩の種類,分布範囲および形成順序を地質調査や年代測定 等によって明らかにするとともに,顕微鏡スケールで認識される微小剪断面の分布密度や性 状を調査し,断層岩の発達過程について検討する。 (2)実施内容 中部地方の跡津川断層帯を事例として地質調査を行い,小断層や割れ目の分布,長さ,方 向等の情報を収集する。さらに,破砕帯の岩石を露頭から採取し,顕微鏡観察,割れ目充填 鉱物の分析および年代測定等を行う。これらの調査により得られた情報をもとに,破砕帯の 種類,分布範囲および形成順序を明らかにし,活断層帯の活動履歴について検討する。 (3)実施体制 現地調査,分析等の一部については,必要に応じて業務委託(外注)を行う。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 活断層の活動履 歴に関する調査 技術の整備 ・概要把握 (破砕帯分布, 形成 履歴の概要 文献調 査,地質調査) ・ 破砕帯の分布およ び形成履歴に関す る調査手法の提示 (分布と履歴の詳 細 地質調査, 検鏡, 解析) ・ 第四紀破砕帯調査 手法の開発 (年代測定試料採 取,測定法提示地 質調査,試料分析, 測定) 破砕帯の分布お よび性状の調査 に基づく将来の 活断層の分布に 関する検討 ・ 破砕帯の分布およ び性状の調査に基 づく将来の活断層 の分布に関する検 討 ・ 将来の断層活動と 力学的影響に関す る詳細調査手法の 検討 2.1.2 低活動性の活断層に関する調査技術 (1)目的 主な活断層の分布は,地形調査によって推定され,現地調査で確認されるが,低活動性の 6 活断層は地形に現れにくいため,その調査手法が緊急の課題である。岩盤中の断層の活動性 調査手法として, 断層活動に伴うリセットを仮定した断層年代測定技術が提案されているが, 断層活動によるリセットが不完全な場合が多いため,より汎用性の高い調査手法の開発が求 められている。 そのため,平成 18 年度は,低活動性の活断層の地球化学的,地質学的な特徴の把握と,そ の特徴をもとにした調査技術の検討を,文献調査と解析により行う。さらに,跡津川断層帯 と中部地方の非活断層を比較検討することを目的として,水素ガス等の測定および粘土や充 填鉱物の観察,分析を行う。 (2)実施内容 文献調査により,活断層と非活断層の違いを整理する。また,跡津川断層帯とその周辺の 非活断層を事例として,水素等の断層ガスの測定と,破砕帯,地すべり,変質帯等に分布す る粘土や充填鉱物の観察および分析を行う。それらの結果をもとに,低活動性の活断層の調 査に適用可能な調査項目と調査手法を検討する。 (3)実施体制 現地調査,分析等の一部については,必要に応じて業務委託(外注)を行う。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 低活動性の活断 層の調査手法の 検討 ・活断層の特徴と, 既存の調査手法に 関する文献調査 ・ 予 備解析 ・ 活断層の特徴の検 討 ・ 活断層の特徴の確 認 (現地調査, 解析) ・ 低活動性の活断層 の調査技術の適用 調査 ・ 調査手法の信頼性 の向上 ①断層ガス調査 ・水素ガスの調査 ・ 水素ガスの調査に 関する取りまとめ ②断層粘土, 充填 鉱物の調査 ・断層粘土, 充填鉱 物等の予備調査 (分 布の把握) ・断層粘土, 充填鉱 物等の調査 2.1.3 断層活動の力学的影響評価モデルの開発 (1)目的 断層活動に伴う力学的影響の変化に関する将来的な予測評価技術の開発にあたっては,そ の活動に伴う破砕帯の破断や変形に着目した調査が重要である。 平成 17 年度までの調査では, 逆断層帯の将来の活動に伴う分岐,移動,伸長による力学的影響を評価するため,秋田県の 横手盆地東縁断層帯等を対象として,周辺の地層や段丘面の変位等に着目した地質調査,弾 性波探査等を行った。調査結果に基づくバランス断面法を用いた解析から,過去数 10 万年間 の分岐断層の出現や変形帯の発達過程を復元した。平成 18 年度の調査では,活断層帯の将来 の活動に伴う破断や変形の力学的影響を評価するため,阿寺断層帯を事例対象として,断層 モデルを仮定した周辺岩盤の変動の解析を行う。そのモデルの検証のため,断層帯周辺岩盤 の小断層,割れ目,充填鉱物等の分布と性状について,地質学的な調査を行う。また,逆断 7 層帯については,横手盆地東縁断層帯で所得したデータの解析を行い,地形,地質構造の発 達過程を踏まえて,分岐断層および変形帯の範囲を把握するための手法の検討を行う。 (2)実施内容 中部地方の活断層帯(阿寺断層帯等)を事例対象として既存文献の調査を行い,横ずれ断 層活動に伴う周辺岩盤の変形や破断に係わる概念モデルの作成および解析を行う。その解析 結果を踏まえて,割れ目や断層の分布および岩石の変形構造を調べるための地質調査と岩石 の顕微鏡観察,および,割れ目等を充填する鉱物の種類の同定,化学組成の分析を行い,断 層帯周辺岩盤の小断層,割れ目,充填鉱物等の分布と性状を調査し,断層活動による変形, 破断の影響について検討する。逆断層帯については,データの再解析を行う。 (3)実施体制 現地調査,分析等の一部については,必要に応じて業務委託(外注)を行う。また,名古 屋大学等の研究者の協力を得る。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 断層帯における 力学的 影響範 囲のモデル化 ・ 既存文献に基づく 断層モデルの作成 と周辺岩盤の変動 の解析 ・周辺岩盤の小断 層, 割れ目, 充填鉱 物等の分布と性状 の調査 ・共役断層・分岐断 層等を考慮した断 層帯の現地調査と 概念的な断層モデ ルの作成 (横ずれ断 層および逆断層) ・ 詳細な現地調査に よる断層モデルの 改良(横ずれ断層) ・ 断層帯における力 学的影響範囲のモ デル化(横ずれ断 層) 将来の断層活動 と力学 的影響 の予測 評価モ デルの検討 ・ 将来の断層活動と 力学的影響の予測 評価モデルの検討 8 2.2 火山・地熱活動に関する研究 2.2.1 火山・熱水活動履歴の調査技術 (1)目的 最終処分法によると,精密調査地区の選定は,概要調査地区およびその周辺の地域におい て,地表踏査,物理探査,ボーリング等による調査(概要調査)によって「対象地層等にお いて自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」を確認することとされて いる。火山活動については,対象地域において過去の噴火活動や熱水活動等の存在の有無を 確認することが必要となることから,これらを調査するための技術の整備を進めている。 また,原子力安全委員会(2002)によると「第四紀に活動したことのある火山の有無に関 する判断が文献調査からできない場合は,概要調査あるいはそれ以降の調査において,検討 する必要がある」ことが示されていることから,当面は,地表踏査や室内試験等によって第 四紀火山を認定するための調査技術(第四紀火山噴出物の同定)を整備する必要がある。こ れまでの研究開発では,主にテフロクロノロジーによる噴火史の編纂手法(多量屈折率測定 地質解析法)を提示するとともに,更新世後期~完新世の編年に有効な手法であることを確 認した。平成 18 年度については,事例研究を通じて,鮮新世~第四紀前半における当該手法 の適用性の確認と問題点の抽出・改良方策等の検討を行う。 一方,マグマ等の高温物質から放出される熱エネルギーや火山ガス等によって,その周辺 では地温の上昇のほか,熱水対流系の形成,地下水や岩石の化学組成の変化等の現象が想定 されている。そのため,概要調査に際しては,過去に生じた上記の現象の痕跡の有無を確認 するための調査技術を整備していくことが重要となる。これについては,鉱物の絶対年代と その閉鎖温度(地質温度計)を利用した熱年代学的な手法によって,過去の古地温・熱水系 を復元するための調査技術に取り組んでいる。平成 18 年度については,特に,非火山地帯の 鉱脈鉱床を事例にした熱履歴の解析手法の検討を行なう。また,低温(~100℃)かつ第四紀 の地質試料に適用できる熱年代学手法を確立するため,U-Th/He 年代測定システムの開発 を進める。 (2)実施内容 ① 多量屈折率地質解析法(RIPL 法)による鮮新統~第四系の編年の検討 下北半島の第四紀火山を事例に, RIPL 法による噴出物の編年を行なう。 代表的な露頭にお いて,火山ガラス,鉱物の屈折率,主成分組成の定量を行い,試料中(レス)に含まれるテ フラを同定する。また,関連する広域テフラやローカルテフラとの対比に基づく編年を行う とともに,放射年代測定(FT)よって編年の妥当性を確認し,RIPL 法の問題点の抽出,手 法の高度化等の検討を行う。 ② 非火山性熱水鉱床を利用した熱履歴解析手法等の整備 紀伊半島等の非火山性熱水鉱床を対象に岩石・鉱物の K-Ar 法,FT 法等の年代測定および その結果に基づく熱履歴の解析を実施する。また,熱水鉱物等の酸素,炭素,硫黄等の同位 体測定を行い,熱水の起源等について検討する。 ③ U-Th/He 年代測定システムの構築 レーザー溶融装置の設置および希ガス抽出ラインの構築,標準試料のレーザー照射試験を 行う。また,ジルコンとアパタイトの鉱物分離手順のマニュアルを作成する。 (3)実施体制 現地調査,観測・分析等の一部については,必要に応じて業務委託を行う。なお,③につ いては,先行基礎工学研究として京都大学,防災科学技術研究所との共同研究として実施す 9 る。また,山形大学等の研究者の協力を得る。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 ①RIPL 法によ る鮮新統~第 四系の編年の 検討 ・鮮新統~第四系の 編年への適用性の 検討 ・鮮新統~第四系の 編年への適用性の 検討 ・解析手法の高度化 (化学組成指標の 導入) ・解析手法の高度化 (同位体組成指標 の導入) 終了 ②非火山性熱 水鉱床を利用 した熱履歴解 析手法等の整 備 ・K-Ar,TL,FT 法 による熱履歴解析 ・同位体組成に基づ く熱源の判別手法 の検討 ・Ar-Ar 法による熱 履歴解析 ・同位体組成に基づ く熱源の判別手法 の検討 ・変質分帯,熱年代 学的手法による総 合的な熱履歴解析 ・同位体組成に基づ く熱源の判別手法 の検討 ・U-Th/He 年代法 による低温領域の 熱履歴解析 ・U-Th/He 年代法 による低温領域の 熱履歴解析 ③U-Th/He 年代測定シス テムの構築 (京都大学と の共同研究) ・希ガス抽出ラインの製 作 ・ブランクと標準試料 のレーザー照射試験 ・アパタイト・ジルコンの分 析テスト ・鉱物分離手順マニュア ルの作成 ・標準試料による較 正 ・年代測定システムの運 用 2.2.2 地下深部のマグマ・高温流体等の調査技術 (1)目的 概要調査に際しては,対象地域やその周辺において,第四紀火山や過去の熱水活動などの 痕跡を確認するための技術のほか,将来,地層処分システムに重大な影響を及ぼすと想定さ れる現象(断層活動,火成活動など)の潜在的なリスクを排除するため,地下深部のマグマ・ 高温流体などの存在の有無を把握するための調査技術を整備していくことが重要である。そ のため,原子力機構では,地震波速度構造,比抵抗構造,希ガス同位体等といった地球物理 学的,地球化学的データを用いた総合的な調査・解析手法の構築を目指している。 平成 18 年度については,非火山地帯の高温異常域の一つである朝日山地を事例に,地震波 トモグラフィーおよび MT 法の適用性を検討するとともに,MT 法については,観測データ の品質(S/N 比)に応じた解析精度の評価手法の検討を併せて行なう。また,地球化学的手 法として,温泉ガス等のヘリウムや炭素等の同位体比がマグマ・高温流体等の調査技術とし て有効性の確認を進める。 (2)実施内容 ① 三次元地震波トモグラフィー 朝日山地周辺を対象に地震波初動による三次元地震波トモグラフィーの解析を実施する。 また,地震波トモグラフィーに用いる震源データの品質を担保するため,Double-Difference 法により気象庁の地震データの震源の再決定を行う。また,地震の発生頻度の少ない地域に おいて,高精度の地震波速度構造を推定するため,後続波を利用した三次元高精度地震波ト モグラフィー解析手法の導入を検討する。 ② 二次元比抵抗構造解析 朝日山地において地磁気・地電流の観測を行うとともに,比抵抗構造のインバージョン解 10 析を実施する。また,観測データの人為的影響を低減させるため,国土地理院の江刺観測点 のデータ等を用いたリモートリファレンス処理を行う。また,S/N 比がインバージョン解析 の結果に及ぼす影響を定量的に把握するための評価指標の検討を併せて行なう。 ③ 地球化学データに基づく評価手法の検討 朝日山地周辺の温泉水・ガスの採取を行なうとともに,ヘリウム,炭素の同位体比の測定 を実施するとともに,熱源の原因について検討を行なう。また,地下深部からの流体によっ て運ばれる熱(移流熱流束)とヘリウム同位体比の関係を定量的に把握するため,近畿地方 を事例に,坑井温度プロファイルが取得されている温泉ボーリングの温泉水・ガスの採取を 行い,ヘリウム同位体比の測定を実施する。 (3)実施体制 現地調査,観測・分析等の一部については,必要に応じて業務委託を行う。また,産業技 術総合研究所,愛媛大学,東京大学,東京工業大学等の研究者の協力を得る。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 ①三次元地震 波トモグラフィー解 析技術の検討 ・地震波初動による トモグラフィー解析 ・震源の再決定 ・後続波によるトモグ ラフィー解析の導入 ・後続波によるトモグ ラフィー解析の導入 ・三次元高精度地震 波トモグラフィー解析手 法の確立 ②二次元比抵 抗構造解析技 術の検討 ・朝日・飯豊山地の 地磁気・地電流観測 ・新庄-古川ルート の統合解析 ・朝日・飯豊山地の 二次元インバージョン解 析 ・地震波速度構造と 比抵抗構造のマッ チング解析 ・三次元比抵抗構造 解析の検討 ・三次元比抵抗構造 解析の検討(インバー ジョン解析,プログラム 等の改良) ・ ③地球化学フ ラックスの評 価手法の検討 ・希ガス同位体によ る評価手法の検討 ・希ガス同位体によ る評価手法の検討 ・ heat fluxと 3He/4He の総合評 価 ・地球化学的手法に よる熱源の種類・深 度等の評価手法の 構築 ・地質・地球物理・地 球化学データを組合 わせた総合的な調 査技術の構築 2.2.3 火山・地熱活動の長期予測・影響評価モデルの開発 (1)目的 わが国の火山活動は,火山列や火山地域と呼ばれるある特定な地域に偏在する傾向が認め られる。しかしながら,火山フロントより日本海側では,火山の分布は離散的であり,明瞭 な火山地域を形成しない。また,西南日本には独立単成火山群が広く分布しているが,これ らは同一の火道から噴火を繰り返す複成火山とは異なり,その活動範囲を推定することは困 難である。そのため,火山フロントよりも日本海側の地域における新たな成層火山の形成や 単成火山群の周辺地域における単成火山の発生の可能性については,今後の検討課題とされ ている (原子力安全委員会, 2002;総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会, 2003) 。 11 対象地域において,火山活動の発生の可能性を検討するためには,概要調査などで第四紀 火山の存在や過去の熱水活動の痕跡のほか,地下深部のマグマや高温流体などの存在の有無 を確認することが基本となるが,地層処分の信頼性をさらに高めるためには,長期予測の方 法論やモデル化についての研究開発を進めることにより,安全評価に反映させていくことが 重要である。これまでの研究開発では,過去の地質データに基づき,確率論的アプローチに よる予測モデル(確率モデル)の構築を進めてきた。平成 18 年度は,確率モデルの信頼性を 向上させるため,地震波速度や地殻熱流量等の地球物理データや火山ガスや温泉ガスのヘリ ウム同位体比等の地球化学データをベイス法により結合させた multiple inference モデルの 開発を進める。 一方,火成活動が地質環境に及ぼす影響としては,マグマや高温岩体などから放出される 熱エネルギーによる周辺岩盤の温度上昇のほか,熱水対流系の形成による地下水理の変化, 火山ガスや熱水などの混入による水質の変化などが想定されている(原子力安全委員会, 2002) 。 変動シナリオを念頭に置いた安全評価に際しては, 火成活動が地質環境に及ぼす影響 の他,将来の地質環境条件の変化などを評価するための技術開発が必要となる。そのため, 平成 18 年度は,地下深部のマグマや高温岩体などの熱源周辺の熱・地下水理・地球化学の変 化を評価するためのシミュレーション技術の開発を進める。 (2)実施内容 ① ベイス法による multiple inference モデルの検討 multiple inference モデルに用いる地球物理データ(地震波速度,地殻熱流量,移流熱流束 等)および地球化学データ(温泉水の主成分,希ガス同位体等)を収集し,データベースを 整備する。 ② 熱・地下水理・希ガス等のシミュレーション技術の検討 平成 15 年度に開発した高温・高圧領域を対象とした熱・水連成シミュレータ magma2002 を用いて火山地帯の高温異常域の一つである鬼首・鳴子火山を事例に,熱・地下水理等のシ ミュレーションを行う。また,シミュレーションと観測結果(実測値)との比較・検討を行 い,これらの解析コードの有効性を確認するとともに,問題点を抽出する。さらに,希ガス の挙動を扱える既存のシミュレータ(TOUGH2/EOSN 等)について,その性能や本研究へ の適用性等を検討する。 (3)実施体制 解析の一部については,必要に応じて業務委託(外注)を行う。 (4)スケジュール(当面5年間の計画) 要求事項 H18 H19 H20 H21 H22 ①ベイス法に よる multiple inferenceモ デルの検討 ・地殻構造の地球物 理データの収集お よびデータベース 化 ・火山 ・ 温泉ガスの地 球化学データの収 集およびデータベ ース化 ・multiple inference モデルの 作成 ・日本海側の火山, 単成火山群の評価 ・解析手法のマニュアル 化 終了 12 ②熱・地下水理・ 希ガス 等のシ ミュレ ーショ ン技術の検討 ・magma2002 による 火山地帯の高温異 常域のシミュレーション ・TOUGH2/EOSN 等の 既存シミュレータの性能 等の調査 ・magma2002 による 火山地帯の高温異 常域のシミュレーション ・TOUGH2/EOSN 等に よる非火山地帯の 高温異常域のシミュレー ション ・観測データの収集 (必要に応じて調 査の実施)取得,シ ミュレーション結果の検 証・評価 ・熱・地下水理・地球 化学連成シミュレータの 導入・コードの改良 ・熱・地下水理・地球 化学連成シミュレータの 導入・コードの改良 13 2.3 隆起・侵食/気候・海水準変動に関する研究 2.3.1 古地形・古環境の復元技術 (1)目的 最終処分法によると,精密調査地区の選定は,概要調査地区およびその周辺の地域におい て,地表踏査,物理探査,ボーリング等による調査(概要調査)によって「対象地層等にお いて自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」を確認することとされて いる。また,総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 廃棄物安全小委員会(2003) は, 「水文地質学的変化が処分システム領域にどのように影響を与えるかを優先して研究を進 める必要がある。 」としている。とくに,隆起・侵食によりもたらされる地形変化は,動水勾 配の変化や土被りの変化等を通じて,岩盤やそこに含まれる地下水などの地質環境へ影響を 与える可能性が懸念される。これらのことから,過去から現在までの地形の変遷を明らかに し,将来の地形変化を推定するとともに,地形変化に伴う水理地質構造の変化や気候変動に 伴う表層水理特性の変化などを推定するための調査技術の整備を進めている。 平成 17 年度は,東濃地域における山間小